HOMEメニュー >スーツ服地の研究(御幸毛織 トリオート)

スーツ服地の研究(御幸毛織 トリオート)

御幸毛織 トリオート
 
スーツの服地(生地)の色柄には,生産国の風土や国民性が影響しているように感じる。英国製の服地の色柄からは,乾いた風土と,素朴な国民性を感じる。イタリア製だと,風光明媚な風土と,陽気で色気重視の国民性を感じる。そして日本製から感じるのは,温暖湿潤気候の風土と,中庸を好む大人しい国民性である。
 
私の好みの色柄は英国製で,国産の服地は品質の均一性が高い特徴があるものの,色柄がおとなしくて,どうも心の琴線に触れない面があった。ただし,それが多くの日本人に好まれるし,また日本人が着て見栄えすることは分かっている。そのため,無地のスーツを国産の服地で作ることはあるが,柄が入っている服地だと,英国製から選ぶことが多い。
 
合夏物のスーツを作ろうと,行きつけのテーラーである銀座山形屋で,お勧めの服地を提案してもらったら,御幸(ミユキ)毛織のTRIHAUT(以後,トリオート)というコレクション(レーベルともいう)のものが目に留まった。そして,銀座山形屋のWebサイトに、トリオートの紹介記事が掲載されている。
銀座山形屋でのトリオート(trihaut)の紹介記事
 
上記の紹介記事では,「SUIT発祥の地サヴィルロウで、定番的に使用されていた52番手糸。この番手は手持ち感やハリコシはありますが、今日的しなやかさにかけます。そこで、今回紹介します素材は、52番手糸の原料にSuper120’sの羊毛を使用することにより、ハリコシがありながら、しなやかさもあわせもつ、特別な生地となります。」と記載されている。
 
トリオートの服地をバンチ(服地見本)でいろいろと見てみたが,52番手糸ならではのざっくりとした質感に加えて,英国服地の世界観が出ていると形容できるほど,色柄が英国調である。これだけなら,英国服地としてよくあるものと同じだが,それに加えて御幸毛織ならではのしなやかさがある。
 
国産服地でこのようなものが出たのかと驚き,今回はその中から,浅めの紺に白いストライプのものを選んでオーダーすることにした。
 
御幸毛織 トリオート
 
 
□御幸毛織とは
明治38年(1905)創業の紡績会社で,ミユキブランドの服地は国産最高級の一つと評価されている。
 
御幸毛織の服地の特徴だが,私としての印象は「剛性があってしなやか」である。これまで何着も御幸毛織の服地でスーツやコートを作ってきたが,どれも織り密度が高くてがっしりしている(業界用語で,打ち込みが良いという)。そういう服地はゴワゴワしがちだが,相反するしなやかさがあり,耐久性があって長く着用することができている。これが,国産最高級の理由だと感じている。
 
御幸毛織の製品(服地)には,いくつものコレクションがある。メインストリームといえるミユキテックス(MIYUKITEX),最高峰のナポレナ(NAPOLENA) ,若々しい感性を取り入れたエムズアーク(M's ARC),軽量で通気性に富んだ盛夏用のシャリック(SHALICK),が同社のWebサイトなどで紹介されている。
 
また,同社のWebサイトなどで紹介されていないコレクションもある。このサイトで取り上げているフランネルのインタナ(INTANA),私は作ったことはないがヴィンテージ調のグレンスタル(GLENSTAL),さまざまなキャラクターの無地ばかりを編集したモノック,を見かける。
 
 
□トリオート(TRIHAUT)の特徴
TRI(トリ,トライ)は「三つの,三重の」の意味を持つ接頭辞,haut(オート)はフランス語のhauteが語源で「高い,高級,高品位」(出典:Wikipedia)の意味をもつ形容詞である。ちなみに,オートクチュール(haute couture)は高級仕立服の意味であり,服飾関係でオートクチュールはよく使われる用語なので,hauteもなじみがあるようだ。
 
トリオートの服地としてのスペックだが,ウール100%で,重さは1メートルあたり265gと,盛夏と真冬を除く季節に適した通年用といえる。  
 
□スーパー表示と番手
ウールは,原毛を紡(つむ)いで糸にして,その糸を1本のまま(単糸),あるいは2本撚り合わせたり(双糸,2プライともいう),3本撚り合わせたもの(3プライ)で織ることで,服地ができる。この原毛の太さをスーパーS表示で表し,原毛を紡いだ糸の太さを番手で表す。
 
スーパーS表示だが,国際羊毛機構(IWTO)ではスーパーS表示に関して最大平均繊維直径(μm)を定めており,たとえばスーパー100'sなら最大平均繊維直径は18.75μmとなっている(最高5%の飾り糸を含む新毛100%の製品が前提)。
 
このスーパーSの数字が大きいほど細い原毛を使っており,しなやかだがデリケートになる。反対に,数字が小さいほど丈夫だがごわごわしたものになる。
 
糸の太さを表す番手の数字は,1gの原毛を紡いで,1mの糸にしたのが1番手という定義である。番手の数字が大きいほど細い糸となり,しなやかだがデリケートになる。たとえば52番手は,1gの原毛を紡いで52mの糸にしたものである。
 
御幸毛織 トリオート
 
太い原毛を紡いで太い糸を作れば,ごわごわするがハりがあって丈夫な服地になる。細い原毛を紡いで細い糸を作れば,しなやかだがデリケートな服地になる。細い原毛を紡いで太い糸を作れば,しなやかで丈夫になる。
 
これも程度問題で,極端に細い原毛だと,太い糸に紡いでもデリケートになる。それはともかく,基本的に服地の丈夫さや感触は糸の番手が直接関係して,原毛の太さは間接的に関係する。
 
丈夫でハリのある感触が好まれる英国では,スーパー80's〜100'sあたりの太めの原毛を紡いで52番手の糸を作り,その52番手の糸を2本撚り合わせた双糸で織った,52/2と表記される服地が代表的とされている。そのためこの52/2は,サビルロー・ヤーン・カウントと呼ばれる。
 
一方国産服地では,60〜72番手を多く見かける。イタリアの高級服地では,スーパー140'sの原毛を撚って92番手の糸を使った服地を見かけるなど,しなやかさを重視している傾向がある。
 
今回のトリオートは,スーパー120'sの原毛を撚った52番手の糸を使っているということで,英国服地としてのざっくりした感触と,しなやかさを両立させたもののようだ。
 
できあがったスーツを着てみた。比較のため,52/2で1mあたり370gの冬物のスーツを着てから,1mあたり265gの,このスーツを着てみた。このスーツにも,52/2ならではの表面がパンと張っている質感が出ている。これには,「さすが,52番手」と感心した。スーパー100sで52/2の服地に比べ,これはもう一段,しなやかさが出ている。
 
トリオートは,御幸毛織ならではの特徴である「剛性があってしなやか」な感触と,俗な言い方をすれば「英国臭く,国産臭さがない」色柄の取り合わせが新鮮に感じる。「御幸毛織の品質で作った英国調服地」は,日本人向け服地のメインストリームではないだろうが,私のような物好きには待望の服地であるし,英国調の服地が好まれる国に輸出すれば売れるだろうと感じる。
 
御幸毛織 トリオート
 

 
メニューに戻る