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スーツ
スーツの好みは,無地のダークスーツで,これは10代後半から変わっていない。色目は濃紺やチャコールグレーで,どちらも黒に近い生地が好みである。上着で三つボタンが流行したこともあるが,常に二つボタンで,たまにダブルの六つボタンを気分転換程度に誂(あつら)えることがある。
そのような私の好みに影響を与えたのは,映画007シリーズの,ピアース・ブロスナン主演の作品である。蝶ネクタイでタイドアップしたタキシード姿はジェームズ・ボンドの定番として除くと,それまでのショーン・コネリーやロジャー・ムーアの着こなしと異なり,常に無地のダークスーツに無地っぽいネクタイを基調としている。風光明媚な地域では浅めのグレーのスーツに黒っぽいネクタイで,観光地では柄が目立たないダークカラーのアロハシャツで登場するが,あくまでも衣装は引き立て役で,主役である自分を浮かび上がらせるようなコーディネートである。間違っても,黄色のネクタイで自分よりも胸元に視線が行くような着こなしはしていない。
これにはピアース・ブロスナン本人だけでなく,スタイリストのセンスも影響しているはずである。その証拠とまでいえるかどうはわからないが,ピアース・ブロスナン主演の作品では,味方や敵役までが同系色のコーディネートで,シャツの袖はカフスで留めている。グレー系とブラウン系の服が多いジェームズ・ボンドと,グレー系とネイビー系の服が多い私とでは,好み自体が多少異なる。しかし,着こなしという点では学ばさせてもらった。
私は背が高いので,スーツを誂えるときは肩パッド入りのスクエアショルダーで,ウエストラインは絞り気味で指定している。また上着にチェンジポケット(右ポケットの上にある,小銭入れ用の小さなポケット)を入れて,間延びした感じがしないようにしている。ただし,上着の袖のボタンが外せて袖口が開く,本切羽(ほんせっぱ)は採用していない。おしゃれにこだわる人なら別だが,仕事中に袖口を開けることはないからである。裏地も,同じようなダークスーツがクローゼットに並んでいるので裏地で区別が付くように色を違えているが,無地か地味な柄ばかりにしている。
スーツの誂えでは,長年にわたって行きつけの店がある。電話を入れてからいくと,私の好みを知り尽くした店員が出迎えてくれて,濃紺やチャコールグレーの無地の生地をいくつか出してくれる。今回はキッドモヘアが入った生地にしようか,とか今回は本水牛のボタンにしようか,とか考えるが,よくよく思い出してみると毎回同じようなことを考えているのに気づく。それはともかく,スーツをオーダーするときは,充実感のある気分転換のひとときになる。女性だと,それ以上の思いが味わえるひとときであるのかもしれない。
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